──お茶を煎れてほしい。

小さな盆を持ち、執務室で机に向かう雲雀へと意を決して歩を進める。
私に気を留めず作業を続ける雲雀の手元に、そっと湯呑みを置いて、引こうとしたその手を引き留めるように掴まれた。
男の手が、女の甲を覆うように被さる。そして指先を滑るように撫でた後、細い手首を掴んだ。


「あの…」
「…」


未だに目を合わせない雲雀が怖い。
お茶を煎れる、が言葉通りの意味だったことは極稀である。
仕事の合間に一息…なんて拍子抜けするような、穏やかな意味ではない。

ガタ、と音を立てて立ち上がった雲雀が、にこりと口角を上げて私を見た。
目だけは笑ってない冷酷な瞳が、真っ直ぐに私を捉える。悪寒が背中を駆け上がった。


「ああ、これありがとう」


雲雀は私の手首を離すと、せっかくだからと湯呑みに口をつけた。
ことんと机上に戻して、私に近付いてくる。
彼の胸板がすぐ目の前の所で止まり、両肩を掴まれた。威圧にも似た何かを感じて、動けなくなってしまう。

顎を片手で掴まれて、上へと向かせられる。目線を合わせずにいると手の力が強まって、頬に指が食い込んでくる。痛い。
仕方なく雲雀へ目線を移すと、満足そうな顔が近付いて、唇を重ねられた。こじ開けるように舌が入ってきて、ざらざらと絡み合う。


「んっ…だめ、です……」


男の肩を押し返すも、びくともしない。抵抗が無意味だと知ってても、それでも、私は行為を望んでいない。
うるさいとでも言うかのように唇に噛み付かれ、ねっとりとしたキスが再開される。
片方の手が胸の膨らみを撫でて、腰に沿ってゆっくりと下りていった。スカートの中に潜り込んで、下着の上からゆったりと擦った後、小刻みに愛撫し出した。


「っあ!…や…っ」


迫りくる刺激に、思わず男の胸に手を置いて、身体を預ける形になる。
どうして、こんな事になってしまったのだろう。

知らない内にボンゴレに私の席が用意され、いつの間にか雲雀に仕えていた。
私自身、自分の立ち位置をよく分かってない。
たぶん雲雀の部下で、たぶん雑務(色んな意味を含む)を任されている。


「気持ちいいの?ほら、濡れてきたよ」


くちゅくちゅと秘部から水音が聞こえ始めて、羞恥で顔が熱くなった。
身体は正直とはよく言ったものだ。気持ち良さには抗えず、小さな芽を優しく擦られて、望んでもない嬌声が漏れてしまう。


「…あ、ああっ!」


雲雀の手の動きが大きくなって、膝が震えて立っていられなくなり、崩れ落ちそうになったところを彼の腕が捉えてくれた。
近くのソファに寝かされて、雲雀が覆い被さるように片足を付き、私の体が少し沈む。

そして、1つまた1つとワイシャツのボタンが外されていって、静止の声も虚しくブラさえも剥がされてしまった。
露わになった胸を、武骨な手が弄ぶ。柔らかさ故に簡単に形を変えるそれを眺めて、雲雀が愉快そうに目を細めた。


「ひゃっ…!」


不意に乳首を摘まれて、甘い痺れが全身を走った。コリコリと執拗にいじられて、その強い刺激に歯を食いしばって抗う。


「堪えるんじゃないよ」


男の指が無理矢理に口をこじ開け、口内に差し込まれた。
雲雀の指に歯を立てないように意識を切り替えたせいで、喉の奥から出る甘ったるい声を抑えることができなくなった。


「ん、んぅ…」


無意識に跳ねる舌は何度も指に当たり、それは男性器を愛撫する行為を彷彿とさせた。
一度そう考えてしまったら頭から離れなくなって、なぜか自分でも興奮してしまった。
そんな私を雲雀は食い入るように見下ろし、彼もまた欲情の色を見せる。


「そう。素直に愉しめばいいのに」


彼への恋心がこんな形になるなんて、思いもしなかった。
セックスとは、愛し合う男女が身体を重ねる行為だろう。
私を性欲発散の道具とでも思っているのか知らないが、合意のない一方的なセックスなんて、そんなの望んでない。


「雲雀さん…」


こんなの間違ってるよ。
そんな言葉も貴方には届かず。高圧的に細められた瞳に、ただ口を噤む。
上司に歯向かうなど言語道断なのだ。

雲雀は特に表情を変えることもなく、丁寧に私のストッキングとショーツを足から引き抜いていき、露わになった秘部に指を挿れた。
入り口をほぐしながら、雲雀は片方の手で自身のネクタイを緩め、床に落とした。
一本だった指が二本に増え、ぐちゃぐちゃと音を鳴らす。

快楽と嫌悪に歪む私の顔を見ながら、男の冷たい指先がそっと首にかかる。
添えられた手は優しく首に巻き付いて、いつでも手折れるのだと、暗に告げた。
私はされるがまま、ただ彼に従うしかないのだ。


「もういいかな」


雲雀は体を離すとジャケットを脱ぎ、ベルトに手をかけた。そして、ぐったりとソファの隅に凭れている私の脚を掴んで広げ、性器同士を密着させた。
もう諦めているから最後の抵抗もしない。

大きなモノが中を割って入ってくる感覚に、息を呑む。
奥に到達してソレは止まり、瞳孔の開いた目がじっと私を見下ろしている。


「どう?」
「どうと言われましても…」


雲雀は相変わらず口角を上げたままで、その暗い瞳はずっと私を映している。
彼が何を問うてるのか分からない。具合は良いか聞いているのだろうか。
返答に困っている私を見て、雲雀は少し頭を傾げるような動作をした。
中に収まっていたソレが動き出し、膣壁を擦って出ていったと思えば、ぐっと押し込まれて最奥に当たる。


「ああ…っ」


体内を彼のモノで埋め尽くされる度に、押し出されるように声が漏れた。私の反応に気を良くしたのか、雲雀は腰を掴むと打ち付ける速度を早めてゆく。
激しく揺さぶられながら、動きに合わせてあんあんと声が出る。


「うん、いいね。その調子」


男によって気持ち良いと感じるようになってしまった箇所を、何度も何度も突かれて、頭がおかしくなる。
やだやだと懸命に手を伸ばすも、その手は空を切るだけ。雲雀は面白そうに目を細めていた。

「まっ……やだ…っ」


何かが身体の中で弾けた気がして、ぎゅっと目を閉じた。ガクガクと腰が震え出して、全身の力が抜けてしまっていた。


「ワォ、すごいね」


感嘆の声が聞こえてきて、そろりと薄目を開ける。嬉しそうな表情の雲雀が、下腹部を眺めていた。
下半身に感じる違和感に全てを察した。
雲雀のシャツの裾を色濃く塗らし、潮を盛大に吹いてしまった現実を目の当たりにする。


「あ…ごめんなさい、また……」
「いいよ。僕がそうさせたのだから」


さっきにも増してぬちゃぬちゃと音を鳴らせ、律動が再開される。恥ずかしさと申し訳なさで何も言えなくなってしまった。


「そんな顔しないで。僕も気持ちいいからね」


律動は射精するための動きに変わっていき、奥へ奥へと肉棒が迫る。ぱんぱんと肌がぶつかり合う音が部屋に響き渡って、腰を振る男とよがって鳴く女の吐息が交じる。


「…っ」


緩やかに雲雀が動きを止めて、眉を寄せた。精を吐き出しているのだろう。
待っている間、またやってしまったと、魔法が解けたかのように正気に戻ってしまうから嫌なんだ。
雲雀の言う通り、行為を愉しんでしまえば、いっそ楽になるのに。

ぬるりと肉棒が引き抜かれて、圧迫感から開放される。
雲雀は避妊具を外してゴミ箱へ捨てると、床に落ちている衣類を拾い、一人 乱れた服装を整えてしまった。


「着替えてくる」


ひと撫でするかのように私の頭に手を置いて、彼は余韻に浸ることなく部屋から出ていってしまった。
もう仕事モードの雲雀に対して、倦怠感でぐったりと動けない私は、着衣のまま性行為を終えた自身の格好を見て、深い溜め息を吐くしかなかった。

これでも愛してる


menu