見せつける
「おめでとうございます!!」
店内に入るなり、陽気なお姉さんが声高らかに叫ぶので、何事かと私達は二人して固まってしまった。
「良い夫婦の日にちなんで、仲良し夫婦にサービスしてるんです!」
強引に小さな花束を持たされ、「こちらへ」と空いてる席を示される。
「で、でも……」
「いいじゃないか。貰えるものは貰っとこう」
そう言って雲雀さんが私の肩に手をまわしたため、半ば強引に歩かされることになった。
あの元気な店員さんは、どうやら雲雀さんのリングを見て、私達を夫婦だと勘違いしたらしい。
恒例行事なのか、両脇のテーブルからは拍手が沸き起こり、すでに出来上がっているおじちゃん達が陽気に歌う。隅のテーブルでは老夫婦がにこにことこちらを見ていた。
戸惑う私を見て雲雀さんはくつくつと笑いながら、バージンロードさながら、全員から祝福と注目を浴びながら席へと着いた。
は、恥ずかしい…!
メニューを開いて周囲からの視線に耐えていると、サービスの爽やかな色合いのカクテルが置かれた。ストローは一本から二手に分かれてるやつだった。
運ばれてきたベタなカクテルと、顔を真っ赤にして怪訝な顔でカクテルを見る私に、雲雀さんはさり気なく口元を手で隠し、大笑いしてる。なんでこんなことになったかなぁ…。
「いただこうか、奥さん」
この店の洗礼か。儀式か。なんと仲良し夫婦を見せつけなければならないらしい。それがサービスを受ける条件なのだ。
ニッコニコで店員さんが(店のみんなも)その時を待ち構えている。
雲雀さんは、しなやかな動作でグラスを持ち上げると、挑発するように真っ直ぐ見つめてくる。
こうなったらやるしかない…!前へ身を乗り出し、雲雀さんとの距離が近づく。ストローを咥えて一緒に吸い込めば……
「Bravo〜〜〜!」
店内は大盛り上がり。まだ注文すらしてないのにヘトヘトだ。
適当にメニューを指さすと、店員さんが厨房へと消えていった。
正面の雲雀さんは見るからにご機嫌で、ジャケットを脱いで椅子に掛けていた。
「仲良し夫婦だって」
「もう…なんでノリノリなんですか…」
陽気なおじちゃん達の歌をBGMに、ひそひそと会話する。
付き合ってるだけなのに、こんなに良くしてもらって…居たたまれない。
「籍を入れてるか入れてないかの問題だろ」
「…え?」
「周りから見たら、僕らは夫婦ってことだ」
いたずらっぽく含み笑いをする。
体温が上がってすごく熱い。
「仲の良さを見せつけてあげよう」
これは食事どころではないな。かっこいい夫と二人、これから仲睦まじい時を過ごすのだ。
ディナータイムは始まったばかり。