今日も上司がかっこいい。
デスクで作業しながらも、時折隙を見ては端正な顔立ちを盗み見る。
さらさらと走らせるペン。大きな手。洒落っ気のない人の、無骨な指に嵌められたリング。書類に視線を落とす切れ長の目───。


「っ!」


不意に男の瞳が動いて、ばちりと目が合う。慌ててパソコンの画面へと目を逸らし、ばくばく鳴る心臓を落ち着かせる。なんでバレた!?
こうして慎重に機会を伺っては彼の顔を拝んでいたというのに、なぜか彼に気付かれてしまうし、逆に視線を感じたと思ったら遠くから見られてることもあった。最近よく目が合う。


「ねぇ」
「はい!」


いつの間に席を立ったのか。上司が後ろから画面を覗き込むようにして声をかけてきた。
そしてもう1つ、分かったことと言えば。少なくとも彼は、私を好意的に思っているらしい。
今このように耳元に息がかかる程、距離が近い時がある。鼓動が早まるのを悟られないよう、いつも通りに振る舞う。


「終わりそう?」
「そうですね、今日中には」
「そう」


それはよかった、と私の肩に手を置いた後、雲雀はポケットから何かを取り出し、私の手元にそれを置いた。


「これは?」
「ああ、今日の夜、会談が入ってね。君も来るんだ」


デスクに置かれた薄っぺらいカードキーに目をやる。どこかのホテルだろうか。これまた急な。怪訝な顔で今日のスケジュールを練り直す。
私が同伴するのは、どうやら決定事項らしい。早くこの仕事を終わらせて、会談とやらのセッティングをしなくては。


「20時から始めるから」


そう言い残し、雲雀は執務室から出ていってしまった。



とりあえず腹は満たしてきた。高級感の漂うエレベーターに1人で乗り込み、じっと階が上がってゆくのを眺めた。
カードキーに書かれた名前を検索して驚いたことに、金持ち御用達のお高いホテル。しかも最上階スイートルーム。会談相手は一体どんなお偉い様なのだろう。
もうすでにキリキリと胃が痛む。重い足取りで綺麗に磨き上げられた廊下を歩き、カードキーを挿して目の前の扉を開けた。


「えっ…」


予想だにしない光景に、思わず呆気にとられて固まってしまった。革張りのソファに足を組んで寛いでいた男は私を見るなり、柔らかく口元を綻ばせた。


「やあ、早いね」


まだ19時だ、と悠長に語る男は、紛れもない自分の上司。
私の任務は先に会談の準備を整え、上司と客人を迎えもてなすこと。なのに、なぜ。


「ど、どうして雲雀さんが…!?」
「悪いけど、会談というのは嘘だ」


は…? よくわからない状況に、ただただ立ち尽くす。
そんな私を余所に雲雀はゆっくり立ち上がると、正面から近付いてきた。


「君はさ、気付いてないの。それとも気付いてないふり?」
「なにを……」
「僕が君を好きだってこと」


予期せぬ言葉に、頭を打たれたように動けなくなる。
好意は感じていた。でもそれは部下としてだろう、そう思ってた。


「ご、ご冗談を」
「冗談じゃない」


頬に手を添えられて、上を向かされる。真剣な眼差しが、私を見ていた。
きっと何かの間違いだ。だって、彼はすごくかっこいい。私なんか釣り合わないくらいに。

男の視線から逃れるように目を泳がせ、周囲を探る。ふと真っ白な大きなベッドが目に止まって、どきりと心臓が跳ねる。ここはホテルの一室。そもそも応接用の部屋じゃない。


「まだ気付かない?」


ゆっくりと顔が近付いて、唇を奪われる。角度を変えては、彼の想いが押し付けられる。
顔が離れて、私の第一声は。


「でも…」


否定の言葉は、また唇に塞がれて消えてゆく。
私は雲雀さんが好きで、雲雀さんも私が好きなんて、そんなこと───。
彼の肩を押して、項垂れるようにして顔を伏せた。


「だって私は……あなたの隣に立てる人間じゃない」


それが私の本心だ。数秒の間があいて、雲雀が口を開く。


「君は、自分の評価が低すぎる」
「え、」


突然、ふわりと宙に浮き、抱え上げられたのだと知るや否や、ベッドへと運ばれ降ろされた。
覆い被さるように雲雀が手をつき、真上から見下される体勢になった。


「な……」
「仕方ない。教えてあげるよ」


腰に手を添えられて、ゆっくりと撫で上げられてゆく。彼の大きな手が胸に触れ、服の上から膨らみをなぞるように全体をやわく撫でる。
行為の意味を理解した途端、ぶわりと熱が湧き上がり、咄嗟に彼の手首を掴んだ。


「なにして…っ」


静止の手はいとも簡単にほどかれ、彼はブラウスのボタンを外しにかかる。
雲雀さんとこれから性行為をする。展開の早さについていけない。どうしてこんなことに……。


「君は知ってるはずだ。僕がここまで入れ込むのは君ぐらいだって」




「あっ……は、あ」


ホテルに着いてからこの短時間で、裸にされて、なぜか上司とセックスしていた。
熱を帯びた雲雀の瞳がじっと私を見下ろしながら、がっしりと腰を掴み捕えられ、絶え間なく最奥を突いてくる。
逃げ場を失った私は、身を捩らせて喘ぐしかない。


「ま、って……ん、あぁっ」
「分かるかい? ほら」


腰の動きが緩やかになり、子宮口に先端を押し付けるように肉棒が動きを止めた。
先程見た、反り返る程に昂ぶらせた彼が、今ではさらに質量を増して、私の中を埋め尽くしている。

紛れもない私に興奮して、あんなに大きくなるなんて……。
苦しいほどの中からの圧迫に、胸が締め付けられる。ぱんぱんに膨れ上がったモノは、まるで雲雀の想いでもあるかのようで。


「これでもまだ分からない?」
「えっ? あ、ぁ…っ!」


不敵に笑ったかと思えば、強烈なピストンが再開される。激しく揺さぶれるので、縋るように雲雀の首に手を廻してしがみついた。
身体が密着してさらに結合が深くなることで、さらに奥へと入ってしまい、悪手だったかと思ったのも束の間、ぱちゅぱちゅと水音が響いてきて羞恥心で頭が回らなくなる。
いや、雲雀から与えられる快楽のせいで、もうとっくに脳は機能していないのだけれど。


「なん、で…」


どうして、私なんかに?
揺れる瞳で見つめれば、彼はふっと穏やかな笑みを浮かべて口を開く。


「さあね。好きだからじゃないの」


薄く開いたままの唇に、噛み付くように彼のが覆い被さり、舌が混ざり合って吐息を漏らしながら、愛を伝える。
こんなに愛おしいのだと、こんなに好いているのだと、何回も教え込むように口付けが続く。
酸欠だからか、男の香りのせいか、ぼぅとする頭で彼を受け入れ続けた。


「どう?」


首を傾げるような仕草で私の様子を覗う。私は顔を真っ赤にしながら こくりと頷き、この事実を認めるしかなかった。


「そう、よかった」
「ん、っ、あ!」


雲雀は嬉しそうに目を細めるなり、膣の上側を擦るように小刻みに腰を動かし始めた。
気持ちいいところを重点的に狙っているようで、快楽のあまり息が上手くできなくなる。
反らした首に、たまらず噛み付くように雲雀が口を寄せ、片手は私の腰を掴んで保定しつつ、もう片方は腹部を優しく撫でている。


「ああ、待ちくたびれたよ。本当に」


ちゅ、とリップ音を立てながら、何度も胸元にキスをしてゆく。
雑誌の恋愛コラムで、ヤリモクの男は必要以上にキスしない、と書いてあった。愛おしむように何度もキスを落とす雲雀とは正反対。
そうか、知らなかった。憧れの上司が、私を好いていたなんて。今でもまだちょっと夢じゃないかと疑ってしまう。

気が済んだのか、腰を掴むと再び大きく出し入れを始め、射精の動きに入る。今までの溜めていたものを全て吐き出すかのように、奥へ奥へと突かれ続け、息を詰める声がしたので雲雀を見てみると、眉を寄せて何かを堪らえるような、見たことのない表情をしていた。
私の中で果てたのだと、繋がっている部分をぼんやり眺めていたのだけれど、少し彼の様子がおかしいことに気付いた。


「え、え…?」
「今日は分らせるために君を呼んだからね」


ぬるりと自身を引き抜いて避妊具を付け替えるなり、私を抱き起こして後ろを向かせ、ごく当たり前のように元あった場所にソレを戻したのだ。再び圧迫感に襲われ、思わず頭が疑問符でいっぱいになる。終わらない?


「まずは、僕がどんなに君を好きか」


背中を優しく押されてシーツに手をつくと、四つん這いの格好のまま、後ろからのガン突きが始まる。


「あ、あ、あ……っ!」
「次に、君はもっと自分を正当に評価すること」


自己肯定感の低さ故に、彼への気持ちを押し殺していた。それを見透かされた気分だった。
そんな劣等感を溶かすように、雲雀は背中にキスを落としながら、太く長い肉棒を出したり入れたりを繰り返す。
熱を持ったソレはじんわりとその熱を伝え、私を満たしてゆく。ぱんぱんと肌が合わさる卑猥な音が部屋中に鳴り響いて、好きな人とセックスしているのだと直に告げてくる。


「君が理解するまで抱き潰すから」

menu