静かに名を呼ばれる。
見上げればそこには、真面目な表情をした恭弥さんが私を見つめていた。
消灯した縁側。月夜の光に優しく照らされ、彼を纏うもの全てが幻想的に見えた。


「君が好きだ」


唐突な愛の言葉に困惑する。普段はそんな甘い台詞を吐かない人だから、尚更。
一呼吸置いて、次の言葉が紡がれる。


「けっ───」


プルルルル…
鳴り響く着信音に遮られ、お互い凝視したまま固まってしまった。
先に動いたのは恭弥さんで、機嫌悪そうに舌打ちをして電話に出ていた。

び、びっくりした…!
恭弥さんが何を言いかけたのか。「け」と言えばあれしかない。考えれば考えるほど、心拍数が上昇していく。


「悪いね、急用が入った」


電話中のドスの効いた声から一転、穏やかな声でそう告げた。
柔らかく笑んだその表情は、どこか憂いを含んでいた。


「そうですか…」
「すぐ戻るよ」


だから続きは今度。
大きな手で優しく頭を撫でると、恭弥さんは立ち上がって着替えに行ってしまった。

突然の出来事に、ぼーっと放心状態で月を眺めることしかでなかった。
うるさい心臓が落ち着いたら、お見送りに行こう。




すぐ戻ると言ったものの、恭弥さんが帰ってくることはなかった。
きっと任務が長引いているのだろう。よくあることだ。そう言い聞かせ、眠りにつくことにした。

深夜2時のことである。
けたたましく鳴り響く携帯によって、叩き起こされた。
おぼつかない手で携帯を掴み、眩しいディスプレイに目を細めている内に、着信が切れてしまった。その後すぐにメールが届く。恭弥さんからだ。


『並盛神社に来て。今すぐ』
とだけ書かれていて、思わす眉を寄せる。


「えぇ…こんな時間に…?」


突然の呼び出しも、すぐに来いという理不尽さも、恭弥さんの悪い所だなと思う。
人には色々と準備ってものがありましてね…。
いくら世の常識を問うたところで、彼は聞き入れないだろうと諦めてるけど。
渋々、カーディガンを羽織りながら支度をした。




神社に近い出口から外に出る。街灯のない境内は真っ暗闇で、何も見えない。
丑三つ時という不気味さも相まって、余計に肌寒い。


「恭弥さーん…」


恐る恐る発した声は、暗闇に吸い込まれていった。

ガサッ
遠くで音がした。恭弥さんかな。
しかし、いくら目をこらしても何も見えない。


「きょ───」




「ちゃおっす!」


ぱちりと目を開けると、目の前にはスーツを着た赤ん坊が、くりくりとした大きな目で私を覗き込んでいた。
慌てて起き上がると、自分の脚が透けていることに気付く。
私の下敷きになっている物──透けているので正確には、重なっている──を確認しようと足元から背後へ視線を向けていく。


「ひっ……!」


私がうつ伏せで死んでいた。
まさに幽体離脱の状態で、透けた私は上に重なっていたのだ。


「後ろから撃ち抜かれたみたいだな」


絶句している私を余所に、赤ん坊はケロッと死因を特定してくれた。
改めて赤ん坊をまじまじと見てみる。天使のような羽をパタパタさせながら宙に浮いていた。


「あの…どちら様で?」
「俺は神社に住む妖精だ」


神社の妖精?頭が疑問符でいっぱいになった。
何もない白い空間に、翼の生えた赤ん坊と言えば…やはりここは死後の世界なのだろうか。

私は死んだのだ。もう恭弥さんに会えないんだ。
その事実がひしひしとやってくる。自身を抱き締めるように身を小さくし、立てた両膝に顔を埋めた。


「プロポーズを最後まで聞けずに死ぬなんて、死んでも死にきれねぇよな」


意味ありげに呟く赤ん坊に目を向ける。
ニッと笑うあどけない瞳の奥に、何か力強いものを感じた。この子…只者ではない。


「リボーン☆チャンスをやる。過去に戻って未来を変えてみせろ」


ありえない。そんなことできるはずがない。
頭ではわかっていても、一縷の希望に縋りたいという思いが強まっていく。


「どうして、助けてくれるの?」
「気まぐれだ。妖精も最近は暇してんだ」


赤ん坊の言葉は、嘘偽りのない本心な気がする。ぐっと拳を握りしめた。


「───やる!」
「そうこなくっちゃな。ただし気をつけろよ。バレたらループ終了。死が確定するからな。立て」


言われた通りに立ち上がると、左手を腰に当てろだの、右手を掲げろだの指示が入る。そして最後に前方を指差し、


「リボーン☆チャンス!」


私の声が響き渡ったと同時に、強い引力に体が引っ張られる感覚がした。

to be continued... /menu



続きはプチ新刊としてダウンロード販売してましたが、今は中止してます。
要望があれば何らかの形で出すかも…?