縁側でぼんやりと佇んでいた彼女の表情が、僕を見るなり明るくなった。
「何してるんだ」
「すみません、春の風が心地良かったから」
よろけそうになった彼女の体に手を伸ばして、優しく胸の中に抱き止める。
もうすぐで春が来る。とはいえ、やっと日差しが暖かくなってきた頃。まだ夜は寒い。
彼女の身体は案の定冷えていて、背に回された手も凍えていた。
そっと体を離して、嗜めるように目を細めれば、彼女は能天気に笑っていた。
その頬は春前の冷気に当てられ、ほんのり赤くなっている。
「何笑ってるの。怒ってるんだけど」
「ふふ、すみません」
僕は気付いていた。彼女が以前のように、朗らかに笑わなくなったこと。
彼女はいつだって、苦しそうに笑う。
その表情を歪ませているのは、紛れもなく自分が原因で。それがとてつもなく歯痒い。
「部屋に戻るよ」
握りしめた手を胸に当て、彼女は静かに浅く呼吸をしていた。
その様子を横目に、僕はその細い腕を掴んで寝室へと歩き出した。
促されるままに、重々しく一歩を踏み出した彼女の異変に気付き、後ろを振り返る。
月光が遮られた暗がりの中、不安そうな瞳が僕を見ていた。
「恭弥さん……」
言ってしまいたいのに言えない、そんな助けを請うかのような、悲し気な表情に胸が締め付けられた。
春が近づくにつれて大きくなる責任と不安に、彼女は押し潰されかけている。
彼女のそんな顔を見るくらいなら、好奇心なんて持つんじゃなかった。
過去の判断を悔やんだところで、それはそれで彼女を悲しませるだけだ。
今は、これからの未来について考えるしかない。
彼女の肩を抱いて、大丈夫だと言い聞かせるように身体を支える。
目を伏せた彼女は身を委ねるように寄り添って、腹部に手を当てて呟いた。
「もうすぐ春ですね」