「それで?」
頭をガツンと殴られた気分だ。
長年の想いを伝えると、彼は表情一つ変えずにそう言い放ったのだ。
隣にいることを許されたと、私は彼にとって特別な存在なのだと、勘違いしていた。
私はただの雑用係で、ただの業務上の関係だっただけで。
好きなのは、私だけだった。
ああ、そっか。そうだったのか。
10年も想い焦がれていたものが、バラバラと崩れていく。
歪んでいく視界。涙が落ちるところを見られたくなくて、私は小さく頭を下げ、踵を返して逃げ出した。
全てが終わった。
好きだったんだよ、雲雀さんが。
フラれて目の前が真っ暗になる程に。
肺が潰れるのも構わず走り続けた。涙と酸欠で顔はぐちゃぐちゃだ。
仕事でたまに訪れるビルの屋上。ここは柵が低いんだ。
ガシャガシャと柵によじ登り、向こう側へ身を乗り出そうとした。
「待てよ!!!」
よく知る声が聞こえてきて驚いた。
振り向くと、全力で駆けてくる山本が勢いをそのままに私の腕を掴み、力一杯 引っ張ったのだ。
体が宙に浮き、男の大きな胸に抱き止められる。
よかった。
私の肩に額を付け、山本が大きく息を吐く。
ずっと走って追いかけてきてくれたんだな。
肩で息をしている山本にぎゅうと抱き締められながら、私はどんよりとした曇り空を眺めていた。
「…なあ、生きてくれねえか」
くぐもった声で、男は言葉を絞り出す。
なぜ、山本が苦しそうに言うんだろう。
さっきまで死のうとしていたのは私なのだよ。
だって人生辛いことばかりだし。
長年の恋も終わっちゃて、生きる目的がなくなっちゃったんだよ。
何も言わず放心している私に、男は抱き留めている腕の力をさらに強めた。
「じゃあさ、今週末、俺に付き合ってくれよ」
「どっか出掛けよう。だからそれまで生きてくんね?」
男は私に生きる理由を与えた。
特に断る理由がなかったので、私はあと少し生きることになった。