静かに、ただ静かに時が流れる。
陽が傾き水平線に消えていくのを、黙って見届ける。

それまでずっと、私が落ち着くまで山本は何も喋らなかった。
ただ時折、心配そうに視線をやるだけで、ずっと隣に座っていた。

大きく吸った息をゆっくりと吐き出し、やっと声帯を震わす。


「ごめんね」
「いいって。もう平気か?」
「……うん」
「そっか」


優しい声音で暖かい手が背中をさする。
大いなる自然を前にした途端、どうしようもない感情に襲われ、気付いたら涙が溢れていたのだ。

全部、吐き出してしまおうか。
迷いを示すように、膝の上で握りしめた両手が小さく震えた。


「ヒバリとなんかあったのか」


驚いて山本を見ると、穏やかな目が私を見ていた。
知ってたの…?思わず漏れた声に、自嘲気味に山本が笑う。


「知らねーよ。でも、何かあったことくらい、見てればわかる」


さざなみが静かに鼓膜を揺らす。
もしかしたら最初からわかってたのかなぁ、なんてぼんやり考えながら、ぽつりぽつりと言葉を溢していく。


「怖かったの。雲雀さんの手が、私を殺そうとしてた。雲雀さん、怒ってて」
「うん」
「私は、雲雀さんの特別にはなれないんだなって」
「うん」


雲雀に想いを伝えたこと、フラれたと思ったこと、でも拒否されたわけではなかったこと。
全て吐き出した。本当はこうして誰かに聞いてほしかったのかもしれない。
もう自分では処理しきれないほどに、感情が絡まってしまった。

山本は辛そうに眉を寄せ、そっかと呟いた。


「…お前はどうしたいんだ?」
「どうって……」


そりゃ、好きな人と結ばれたいと思うよ。
そんな健気な願いも、現状では無謀に近い。そんな現実に何も言葉を返せずにいた。

山本は項垂れたように俯くと、何かを振り払うように小さく首を振った。
そして顔を上げ、未だに辛そうな表情のままこちらを見つめた。


「今こんなこと言うのはどうかと思うけどよ……俺じゃダメか?」


まさかの言葉に思わず凝視する。とうとう、この時が来てしまった。
先伸ばししていた問題に、終止符を打たなければならない。


「なんでお前が辛い思いすんだよ。……もう見てらんねぇよ」


自身を映す瞳に、何を思ったのだろう。
悲壮感の滲み出る表情で、絞り出すように告げた。


「好きだ」


視線を海へと戻す。乾いた笑いが込み上げ、自嘲するかのように笑む。
ちょっと前に山本も同じような反応をしていた。私達は似た者同士ってことだ。


「それでもね、雲雀さんが好きなの」
「叶わないってわかってるのにね。どうしようもないくらい好きなの」


細めた目からぽろぽろと零れる涙に、山本も小さく笑い、「そっか」と呟いた。
本当、大人って面倒臭い。

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