頭が重い。全身がだるくて、感覚が鈍い。
ゆっくり目を開けると、見知らぬ天井が見えた。身体は柔らかなベットに包まれている。
視線をずらすと、男が僅かに身を乗り出してこちらを覗き込んでいた。


「よかった、目が覚めたようだね」
「…ここは?」


短髪の男は、髪色と同じく黒いスーツを身に纏い、柔らかく笑んだ。
鋭い眼光が弱まって、切れ長の目がさらに細くなる。なぜかその光景を眩しい、と思った。


「療養地だよ。君の怪我を治すためにね」
「…?そうなんですか」


ズキズキ痛む頭と、赤く腫れ上がった脚が、事実であることを告げる。でも、なんか不可解だ。


「高い所から落ちたんだよ。覚えてないの?」
「…えっ」


記憶を探ってみても、何も思い出せない。もっと言えば、


「すみません、あなたは…どなたですか」


男が目を見開く。何秒だろう、沈黙がしばらく続いた後、男は目を伏せた。


「そう、僕のことも覚えてないんだね」
「……ごめんなさい」
「謝ることはないよ」


優しく微笑むが、やはりどこか悲しそうで。キリキリと胸が痛んだ。


「僕は雲雀恭弥」
「雲雀さん…」
「いつもみたいに呼んでくれないんだね」
「いつも…?」
「下の名前」


名前で呼ぶほど、親しい間柄だったのか。
だからこんなにも、胸が締め付けられるくらい優しい眼差しを向けてくれるんだ。


「ごめんなさい…私、何も思い出せなくて……」
「いいんだよ」
「あなたと私は、どんな関係だったんですか?」


彼はそっと私の左手を取り、視線を絡ませる。
促されるように視線を落とすと、薬指には銀色に輝く指輪が存在感を放っていた。


「えっ!わっ、え!?」


取り乱す私に、彼が口角を上げて笑う。
待って。…私、こんなかっこいい旦那さんがいたの!?

次々と新たな情報が入ってきて、頭がパンクしそうだ。
どっと疲労感か押し寄せ、次第にふわふわとした眠気に変わってゆく。


「ゆっくり思い出せばいいよ、


、それが私の名前なんだ。
ぼやけてゆく視界。最後に見えたのは、こちらを見下ろす、笑ってない雲雀さんの目だった。

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