あれからと言うもの、雲雀さんのスキンシップが多くなった。起きたら隣で寝てることもあって、ぎょっとする。
とても心臓に悪いんだけど、たぶん以前まではそれが普通で、こんな風に触れ合っていたのかもしれない。
ドオオオン!!!
突然の振動に、何事かと慌てて飛び起きる。
部屋の小窓からは相変わらず木々しか見えず、状況把握にもならない。
鍵の件以来、危ないことはしないという約束で外に出れるようになった。急いで扉を開けて通路へ出る。なんだか1階が騒がしい。
「…うっ」
早足で歩いたまま勢いよく何かとぶつかり、その場に尻もちをつく。まるで、見えない壁に阻まれたかのようだった。
いくら押しても、なぜか先へ進めない。
「な、なんで」
───!
何かを叫びながら青年が現れた。
グローブから炎を噴射して私の手前に着地すると、「邪魔だ」と空を振り払った。
「大丈夫か?」
「…あ、」
あなたこそ頭に火がついてますが…。
こちらの心配も余所に、青年は私の両肩を強く掴むと安堵の息を吐いた。しゅぅぅ…と額の炎が消えてゆく。
「よかった、無事みたいで。みんな心配してたんだよ、──ちゃん」
「え、今なんて言いました?」
最後の、恐らく名前のところがよく聞こえなかった。というより、ぼやけてるというか…異国語をうまく聞き取れない感じだった。
青年がきょとんと不思議そうな顔をする。
「急にいなくなって、みんな心配してたんだよ、──ちゃん」
「すみません、最後よく聞き取れなくて…」
青年の顔が深刻なものになってゆく。
「君の名前は、名字名前じゃないか。もしかして…覚えてないの?」
名字名前?いなくなって、みんなが心配した?
身に覚えのない言葉だ。でも嘘をついてるようにも見えない。お互い何か不穏なものを感じ、目を合わせたまま固まっていた。
不意に青年が私を庇うように、背を向けて前に出た。
「その子から離れて」
雲雀さんの声がして、トンファーを構えながらこちらへ歩いてくる。
いつも柔らかい笑みを向けてくれた人とは思えない、ただらなぬ殺気を放っていて…すごく怖い。
「雲雀恭弥!この子に何をした!」
額に炎が灯り、青年も身構える。
雲雀さんは距離を置いて立ち止まり、冷めた目でこちらを見ながら静かに言った。
「、こっちへおいで」
再度、名を呼ばれ、しんと静まり返る。
私はその場を動けなかった。
「あなたは…私のこと知ってるんですか?」
「知ってるも何も───」
青年が顔だけ振り向いて応答してる間に、一気に距離を詰めた雲雀さんがトンファーを振り下ろす。
青年はそれを手で掴み、私に下がってろと促した。
2人が乱闘してるのを見つめながら、ざわつく胸を抑える。
どういうこと?情報が交錯して、理解が追いつかない。
「君は!こいつに連れ去られたんだ!」
応戦しながら青年が叫ぶ。
頭を打たれたように、その場で立ち尽くした。
連れ去られた…?じゃあ、今までの日々は一体なんだったの?
左手に光る指輪を見る。何の変哲もない指輪が、とてつもなく恐怖に感じた。
「変なこと言わないで」
「ここに幽閉されて、名前も変えられて」
「黙って」
「記憶も消されたんじゃないのか!?」
「うるさい!」
全てが崩れ落ちてゆく音がした。当たり前だと思っていたものが、覆されてゆく。
「本当なんですか!」声を荒げて問う。
両者は距離をとって静止し、青年は私を守るように立ちはだかった。
「この人が言ってることは…本当なんですか」
「君は僕じゃなくて、そいつの話を信じるの」
「…はぐらかさないで、本当のことを教えてください」
雲雀さんは黙ったままだった。