「君は俺と同じ町の出身で、吸血鬼ヒバリンに連れ去られたんだ」


青年の言葉に、雲雀さんの眉がぴくりと上がる。


「ああ…かつてはそんな名前で呼ばれてたね」
「名前、血を吸われたんじゃないのか」


血を吸われるだなんて、そんなこと…。
はっと首元に手を当てる。キスマークだと思っていたこれは、


「本当のことを言ったらどうだ」


青年から疑念の目を向けられ、雲雀さんは不愉快そうに口を曲げた。


「…はあ。まさか、君の記憶が戻ってほしいと思うだなんてね」


雲雀さんは静かに武器を仕舞うと、闘志がないことを示した。
それを見た青年も警戒を解き、額の炎を消す。


「いいよ、記憶を戻してあげる。話はそれからだ」


突然、後ろがバタバタと騒がしくなり、階段から2人の青年が現れた。
何もない空間を蹴ったり締め上げたりして、まるで誰かと戦っているようだった。
片が付いたのか、銀色の髪の青年が「ボス!」と叫ぶ。


「まだ生きてたの?君達、早く出ていって」


青年はどちらもボロボロで、服には血が滲んでいて酷い有様だ。
短髪の黒髪の青年に至っては顔色が悪く、心配になるほど青白かった。


「この子を解放するまで、俺は帰らない」


雲雀さんを睨みつける青年の背後から、そっと状況を窺う。
真相がわかるまで、過去の私を知るこの人にもいてほしい…。
得体の知れない恐怖で、雲雀さんが怖かった。


「…わかった、君は許そう。だが、そこの2人は帰って」


青年が小さく頷いたのを合図に、2人が渋々帰っていく。
重い沈黙と、雲雀さんの冷たい目が、ただただ怖かった。





ベッドに横になり、天井を見つめる。
隣には椅子に座った雲雀さんが、こちらを見ていた。
ツナと名乗る青年は、隣の部屋で待機している。


「語弊はあるけど、彼が言ってたことは間違いではないよ」
「…全部、嘘だったんですか」
「どうして泣いてるの」


ぽろぽろと涙が零れてくる。
騙されてたから?愛しい日々が全て虚像だったから?
ぐっと涙を拭ったまま腕で視界を閉ざし、小さく震える。


「…わかりません」


優しく腕を解かれ、雲雀さんが覗き込んでくる。とても穏やかな目をしていた。


「僕を嫌いになってしまったかな」


わからないよ。自分の気持ちがわからない。
彼から目を逸らし、目を閉じる。


「過去を知って、それから判断してほしい」


そっと額に手を添えられ、心地良い眠気が襲ってくる。
ただ静かに底へ落ちていった。





暗闇の中に、小さな匣がぼんやりと浮かび上がっていた。
これはきっと、閉じ込められた記憶。

開けたらもう、元には戻れない。
雲雀さんとの関係性も変わってしまう。
過去の私に、私を返す。


無意識に握り締めていた手を開いて、そっと匣へと伸ばす。
触れた途端に開き出す匣。
眩しいほどの光が溢れ出した。


私は、本当のあなたを知りたい。

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