はあはあ───
荒い息を整え、男を見下ろす。懇願するような男の目に、悲痛な表情をした自分が映る。
顔を背け、重い引き金を引いた。
大切だから、君を───
だらりと腕を下ろし、後ろを振り返る。通路には何人もの男が血を流して倒れていた。
指示通り、二手に分かれて主犯グループの勢力を分散し、構成員達を始末した結果だ。
背後に気配。長い指が首に巻き付いた。
なぜ気付かなかった!身を翻して腕を払い、銃口を向ける。
「…雲雀さん!」
「照準がブレてる。ちゃんと狙え」
眉間に皺を寄せ、不機嫌そうに雲雀が立っていた。
向けられた銃口を掴み、自身の額に宛がう。は慌てて雲雀の手から銃を引き抜き、ホルダーにしまった。
「ふぅん、撃てたんだ?」
辺りを見回し、真っ直ぐを射る。目を泳がす様子を見れば、答えは一目瞭然。
の肩を掴み、乱暴に壁に叩きつけた。痛みで歪んだ顔を首元から持ち上げるように上へ向け、唇を重ねる。
「やめっ…こん、なところ、で」
「ちゃんと殺さないのが悪い」
そういう意味じゃない。今は任務中だ。
肩を押し返すが、雲雀はやめようとしない。
「甘いよ、君は甘すぎる」
目を背け、急所を外し発砲。近付く雲雀に気付かない上、この有り様。
の頬を片手で掴み、虫の息でこちらを睨む男に顔を向けさせた。
「今度はちゃんと始末することだね」
いずれ力尽きる。床に這いつくばる男には目もくれず、雲雀は歩き出した。
肩で呼吸を繰り返し、はその後を追いかけた。
任務後の車内はいつも静かだ。が銃を取り、他人の命を奪った日は特に。
助手席に座りながら、彼女は自分の行為に良心を痛め、悔いているのだ。
引き金を引く時は決まって目をつぶり、事実から目を背けた。
彼女は普通すぎて、優しすぎた。
「この仕事、向いてないよ」
「ごめんなさい…」
俯き、声を振り絞るように呟く。信号で車が止まる。
雲雀は腕を伸ばし、彼女の頬についている返り血を親指で拭った。
すでに乾いてこびりついたそれは、擦っても完全には消えなかった。
「そういう顔されるとムカつくんだけど」
「ごめんなさい…」
今にも泣きそうな顔を窓へ向ける。車が走り出した。
君が涙し、目を背けた世界で生きる僕を、馬鹿にしてるのか。
深夜、静まり返った街を走る無音の車内で、雲雀は歯軋りをした。
任務後は誰とも話したくないと、は自室に引きこもり、自己嫌悪に陥る。
それを知ってか知らずか、風紀財団に戻ると雲雀は決まって彼女を寝室に連れ込み、気晴らしの戯れをするのだった。
「もう、明日から来なくていいよ」
ベットに押し倒されたの顔の横に手をつき、雲雀は怒るわけでも悲観するわけでもなく、強いて言えば諭すような声音でそう告げた。そんな雲雀を無気力な瞳が映す。
「殺す覚悟のない部下なんて要らない。邪魔だ」
言葉とは裏腹に、その手は愛でるかのように彼女の唇をなぞった。
外に出れば上司と部下。アジト内では愛人。恋人なんて可愛らしいものではない。
いつからだろう。昔はもっと違う関係だった気がする。
無抵抗なのをいいことに、男はどんどん事を進めていく。苦悶の表情を浮かべ、やっとが口を開いた。
「以後気をつけます。なので任務に同行させてください」
どこか宙を見ていた目が突然、意志を持って自分に向けられ、雲雀は眉間に皺を寄せた。
何が君をそこまでさせたんだ。
あの頃みたいに、何も知らないまま笑ってくれればよかったのに。
このまま君の手が汚れていくなら、いっそ僕が壊してしまおうか。
手に入れた地位も、一般人であった君がここまで来るまでの並大抵ではない努力も、何もかも、全て。
「今の君はつまらないな」
投げ出された彼女の手に自分の指を絡ませ、奥へと沈めていく。
完璧を装ったなんていらない。
ねえ、もっと乱れて、鳴いて、
本当の君を見せて。