手をつなぐ
薄明かりに照らされたゴツゴツとした岩肌に囲まれ、今日もひとり祈るように手を合わせる。
祭壇とは名ばかりで、ここは歌姫を留めておく牢獄である。
歌姫というのも表向きの言葉であって、実際は人柱だ。
時間も日付もわからなくなった今、もう考えることもやめてしまった。
だから、声をかけられるまでそれに気付かなかった。
「いつまで、そうしているつもり?」
聞き慣れた、でも忘れかけていた声に体が跳ねる。
勢い良く振り向けば、そこには雲雀さんが立っていた。
「どうしてここに…」
質問には答えず、彼は手を差し伸べる。
ぽかんと見上げたままの私に、ムッと表情が険しくなった。
「君はこの国のために死ぬわけ?」
「でも、そうしないと均衡が保てなくなるって…」
雲雀さんは薄ら笑うと宣戦するかのように言う。
「知らない、そんな世界なんて滅べばいい」
無理矢理に手を掴まれたかと思うと、強い力で立たされた。手を引かれるようにして出口へと歩いていく。
人肌がこんなにも愛おしくて、この温もりをくれるのは紛れもなく大好きな人で。
彼の手から与えられる安心感に、泣きそうになる。
眼前に広がった青空は、長い間 光を閉ざしていた瞳には眩しすぎて。
筋力の衰えからふらつく私を一瞥すると、雲雀さんに軽々と抱き上げられてしまった。
大好きな彼と、好きな人達のためにここに来たはずだったのに。ダメだな。
全てを見捨てても、この人の温もりを直に感じていたいと願ってしまうなんて。
「どうしようか」
これからのこと。さあ、どうだろう。
気持ち良い風が、真っ白な式服のドレスを揺らす。
「帰りたいです、家に」
侵入者に返り討ちにされた見張りの者が大勢いるのだ。
そのうち歌姫の誘拐で国が大騒ぎになるだろう。
どうか、その時までこの手を離さないで。
世界が終わるまで、あと少し。