優しい嘘
「また行き止まりだ」
彼女が足を停め、がくりと項垂れる。
僕らは、出口もなければ扉もない、ただの通路を延々と歩き回っていた。
何かの術中にかかってしまったのか、気付いたらここにいた。
「君、何か知ってるんだろ」
先行く小さな背中に言葉を投げると、彼女はくるりと向き直り、にこーと口角を上げた。
「いいえ?」
そして、早くここから出してくれないかなぁ、と雲雀の横をすり抜けていった。
その細い手首を強く掴んで、留まらせる。
「ねえ」
「…恭弥さん、離してください」
苛立ちを込めた声に、彼女は眉を下げた。恐怖でも怯えるでもなく、よくわからない表情をする。
僕にはそれがどういった感情なのか、それを名付ける言葉が思い付かなかった。
「私はずっとあなたの側にいますよ」
だから、放して?
駄々っ子をなだめるように彼女は微笑む。
嘘だ。食い込む程に手に力を込めた。彼女の顔が歪む。
「恭弥さん、みんながあなたを待ってる。私もあなたに会いたい」
一本、また一本と優しく指をほどいていく。
穏やかに伏せられた目は、慈愛に満ちた眼差しで雲雀の強張った手を見ていた。
「大丈夫、向こうで会いましょう。だってここは───」
陽の光が室内に差し込み、もう朝なのだと知る。
いつものように横を見やり、いつものように手を伸ばした。
そこには、ぽっかりとあいた空間だけがあった。
泣きそうな、優しい笑顔が吐いた嘘。
ほら、やっぱり君はいないじゃないか。